海域での天然採苗の成功を左右する諸要因のうち,次の要因をクリアしてようやく採苗に結びつきます。
1. 産卵量
親貝の数が減少すると産卵量が減少して採苗不調に陥る場合があります。例えば平成11年の不調は,前年の夏に広島湾で発生したヘテロカプサ赤潮による親貝の大量へい死が原因だと考えられています。
2. 幼生の生残り
幼生の生残率の減少は主に海域の餌不足によって引き起こされます。餌不足は降水量と密接に関係しており,河川から海域への栄養塩の供給量が減少することで起こります。7月の降水量が少ない空梅雨の年である平成6年,16年,20年は採苗不調に陥りました。
3. 幼生の移動・拡散
幼生の多くが生残って順調に成長していても,集中豪雨による大量の河川水の流入や,台風の接近による強風によって短期間に散逸して採苗に結びつかない場合があります。例えば平成2年がそうです。平成29年も広島湾北部海域の幼生のほとんどが6月末の大雨と強風によって広島湾の北部海域から西側の海域に移動したと考えています。
では,近年の採苗不調頻発はどのような原因で起こっているのか平成11年以降の広島市が行った幼生調査のデータを使って検証してみました。
- 産卵親貝の変化で生まれる幼生数が減少している?(生まれない?)を確認するため小型幼生(〜150μm)の出現数を比較。
- 幼生が育っているかどうか(育たない?)を確認するため中型幼生(150〜210μm)の出現状況を比較。
まず,海域を図のように区切り,海域毎の小型幼生出現レベルを求めました。広島湾北部海域の奥部をA海域,出口に近い海域をB海域としました。
小型幼生の出現状況のグラフではB海域北側をBN,南側をBSとしました。
グラフを見ると,長期的に小型幼生の出現が減少しているといった傾向はみとめられませんでした。
平成19年以降の中型幼生の出現状況について,海域を区切らない全域の平均数の6-8月の推移を示しました。平成20年,25年,26年と中型幼生の出現数が低調な年は不調に陥っています。
まとめると,小型幼生の出現レベルは低下していない。一方,平成25年以降,中型幼生の出現レベルが低い年が続いており,幼生が育ちにくい状況であることを示しています。
広島県立総合技術研究所水産海洋技術センターが調査したクロロフィルのデータ(左)と中型幼生の出現状況(右)と対比して示しました。
クロロフィル量というのは植物プランクトン量,つまりマガキ幼生の餌(餌にならない大きさのプランクトンも含みます)の指標です。地図を示したスライド「検討するための海域区分」にある3か所の赤丸の定点における表層5mの平均クロロフィル量(μg/L)の6-8月の推移を示しています。
このグラフから,クロロフィル量のレベルが低いと中型幼生出現数が少なくなる傾向があることがわかります。特にB海域の定点(赤線)のレベルとの関係が顕著で,平成26年までは5μg/Lを超えるくらいだと良いのですが,それより低いと良くないようです。ただし,平成23年は6月中が高かったパターンだと思います。これで見ると平成27年は非常に危なかったことがわかりました。
「検討するための海域区分」の赤丸3定点の長期的な変化を見てみましょう。
平成19年以降の6-8月の調査の結果をすべてプロットしたグラフです。このグラフから湾奥ほどクロロフィル量は高いこと。A海域,B海域の定点で長期的な低下傾向がみとめられました。
講演概要-その3につづく
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