平田水産のねらい
天然採苗(海域に自然発生するマガキ幼生を採取し養殖用種苗として確保)によって3cm以下のマガキシングル稚貝を低コストに確保し養殖生産者に販売する。
広島でのカキ養殖の現状
日本では海域に発生するマガキ幼生を付着させ養殖用種苗とする,いわゆる採苗においてほとんどの場合ホタテガイの殻(以下ホタテ殻)が使われることは,本ブログの「マガキ浮遊幼生の付着と採苗」の記事で取り上げました。
生産者はマガキ稚貝の付着したホタテ殻をロープに挟み込んだり,針金を通して筏や延縄から垂下して付着したマガキ稚貝が商品サイズになったところで収穫します。
広島では,収穫されたカキのほとんどは「むき身」で出荷されます。「殻付きカキ」も出荷されますが主流ではありません。この「殻付きカキ」は,ホタテ殻に付着した状態でほぼ商品サイズまで養成した塊をバラバラにしたものです。再びカゴに入れて養成する場合もありますが,これらはいわゆる「シングルシード」とは養殖工程が異なります。
シングルシードにするのであれば,ホタテ殻に付着した3cmまでのマガキ稚貝をホタテ殻から引き剥がしてバラバラにできれば問題ありません。しかし,これは非常に手間がかかるだけでなく殻が破損しやすいため回収率が低くなります。
なぜなら,ホタテ殻に付着したマガキは,同じ貝殻の材質だからか,付着した面の殻を作るのを省略してしまうようです。このため無理に剥がそうとすると,ほとんどの場合殻が破損してしまいます。多数の個体が密集し付着面が狭くなってホタテ殻の面から直立したり,ホタテ殻の端に達してはみ出すと付着側の殻もしっかりしてくるので少しはがしやすくなるものの,手間がかかる割に回収率は上がりません。
一方,陸上タンクでの人工種苗生産では,稚貝をカキ殻の欠片や砂粒に付着させ,シングル稚貝を生産する技術(カルチレス採苗やアップウェリングシステム)がすでに確立されています。しかしながら,陸上施設の整備など生産にコストがかかりすぎるのが問題です。
平田水産の事業の位置付け
以上のような状況の中で,平田水産では広島湾において下図の通り,天然種苗からマガキシングルシードへの新たな経路確立を事業の目標にしています。この経路の確立ができれば,むき身大量生産だけでなく,小規模ながら多様な殻付きカキの養殖経営が可能になると考えています。
ホタテ殻を使わないマガキ天然採苗
平田水産では,広島湾においてホタテ殻以外のコレクターを使用した採苗技術の導入によって,海域からのマガキシングルシードの安定確保を目指しています。この後の記事では,2016年から試行錯誤の途中ですが,とりあえず2020年に行なった天然採苗の状況を紹介します。
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