二枚貝幼生の人工生産技術はすでに確立されていますので,各所で様々な種類の二枚貝の種苗生産が行われています。マガキも人工生産が行われていますが,殻が基質に固着して移動できないという他の二枚貝にない性質を持っています。このため,浮遊幼生から基質に付着させる工程が他の二枚貝の場合と異なります。広島県が三倍体マガキの人工種苗生産技術開発を行った際に,私もチームの一員として携わりましたので,当時私が直面した問題について少し説明してみようと思います。飼育するマガキ幼生が二倍体か三倍体かについては人工採苗に大きく影響しませんのでここでは考えないことにします。
マガキ幼生はどこにでも付着する?
マガキの人工飼育において水槽内で300μm程度に成長した浮遊幼生はそのまま飼育を続けると水槽の底や壁面などに付着し始めます。付着し始めると雪崩のように付着が進みます。水槽に付着した稚貝は,付着直後ならば刷毛などで剥離することも可能ですが,しばらくすると殻が伸び,無理に剥がしたとしても殻が破損してほとんどが死んでしまします。また,生きていたとしても数ミリの稚貝をカゴに入れて管理するのは,相当手間がかかりますので現実的ではありません。
そこで,海域での天然採苗のように幼生が付着期に成長する頃合いを見計らって採苗器を投入することになります。天然採苗で使用するホタテガイの殻(以下ホタテ殻)の採苗器を浮遊幼生がいる水槽に入れ,短時間で全てのホタテ殻に均等にマガキ稚貝が付着してくれることが理想です。
しかし,実験の結果は理想的な結果になりませんでした。付着期幼生とホタテ殻の採苗器を同じ水槽に入れてもほとんどの幼生が付着し終わるまで時間がかかるだけでなく,均等とは言えない付着の状況でした。つまり,多くのホタテ殻には付着しないか,付着したとしても数個しか付着しないのに一部のホタテ殻に集中して付着したということです。
均等に付着するとは?
マガキ垂下養殖では,ホタテ殻に付着した稚貝は収穫までそのまま成長を続けます。ホタテ殻1枚に付着したマガキ稚貝が100個でも1000個でも最終的に収穫できる個数は多くても数十個です。つまり,必要以上に多く付着しても最後には無駄になってしまうということです。逆に数個しか稚貝の付着していないホタテ殻からは多くても数個しか収穫できません。これを養殖に使用すると経済的に無駄が多すぎます。できれば全てのホタテ殻に数十個から100個位の稚貝が付着しているのが理想です。
特にマガキ人工種苗生産において,垂下養殖用の種苗を生産する場合,最終的にはホタテ殻が単位になります。飼育した浮遊幼生の100%が付着したとしても,数個しか稚貝の付着していないホタテ殻は種苗としては使えません。また,10000個付着していても100個付着しているものと同じ1枚なのでせっかく育てた幼生が無駄になってしまいます。このような理由から均等に付着すること,つまり付着をコントロールすることは製品の歩留まりに大きく関係してくるわけです。
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