「広島かき天然採苗の現状について」講演概要-その1

平成30年3月6日 15:00から広島市のホテルセンチュリー21広島にて広島県漁業共済組合主催養殖共済推進会議が行われました。会議の前座として私が最近のかき生産者の間で関心の高い「かき天然採苗」について講演させていただきました。

今回の漁業共済組合の会議の参集範囲は,漁協の職員および生産者の方々約50名くらいです。養殖共済のメインはかき養殖なのでほとんどはかき養殖の関係者でした。

平田水産技術コンサルティングは,広島かき漁業地域水産業再生委員会から平成30年度に次の二つの業務を受託しました。

1. 種苗の安定確保を目的として設置した親貝筏における養殖マガキの産卵状況調査
2. 過去の広島湾採苗データからの親貝筏設置効果の検討

今回の講演では,広島湾での天然採苗の現状を過去のデータと比較して示し,その問題点と考えられる対策について提言させていただきました。

過去のデータとは,広島市水産振興センターが行った約20年分の幼生調査および種見調査の結果,および広島県立総合技術研究所水産海洋技術センターが行った環境調査,幼生調査の結果などです。ただし,データの使用および結果の公表については市,県,委員会の三者が覚書を交わしており,承諾なしに私的なブログで解析結果を公表することはできません。よって,関係するデータ部分はモザイクが入っていますのでご了承ください。

今回の発表スライドを使って何回かに分けて順に概要を説明していきます。

演題と発表内容です。自己紹介の部分は省略します。興味のある方はこのウェブサイトのプロフィールを参照してください。

まず,平成に入って約30年の広島県のマガキ養殖種苗の確保率を示したスライドです。各年度広島かき養殖出荷指針(広島県)に記載された前年度の生産概況を参考にしたものです。昭和時代は採苗不調はほとんど見られませんでしたが,平成に入ってから平均すると3年に1回は不調の年が起こっていることになります。近年では平成16年,平成26年が必要量の20%以下しか確保できない深刻な採苗不調の年でした。

単年の不調であれば,前年の余剰ストック種苗や購入でなんとか生産を継続できますが,深刻な不調が2年連続すると,種苗を確保する運転資金不足などから多くの経営体が生産を継続できなくなるのは必至です。年によっては非常に簡単に採苗が終了する年も巡ってきますので,継続的な採苗対策を検討することを難しくしています。

多少不調な年があっても長年種苗を確保してきましたので,生産者は,地先で種苗が採れることが当然で,採れない年は,周期的に巡ってくるとか,天気のめぐり合わせが悪いとか,どこからか有害物質が流出しているからだとか色々な原因説を戦わせています。これらの不調原因の真偽はともかく,年々種苗が採れにくくなっているのは確かです。

生産者は地先の海で種苗が採れることが,産地である広島の最大のメリットであることを認識する必要があります。種苗が採れない地域では他所の種苗を購入しないと養殖できないのです。

まず,広島湾で毎年種苗が採れる仕組みを正しく理解して,次に,長期的に何が変化して何が変化していないのかを冷静に見極めて,効果的な対策を考えていきましょう。

 

マガキの生活史についてのスライドです。親かきは水温や塩分の急激な変化を引き金にして卵・精子の放出を始めます。1個体が卵・精子をわずかに放出すると,この卵・精子が周囲の親かきを刺激して一斉に卵・精子の放出を始めます。さらに次々に連鎖反応的に広がって集団全体で卵・精子を放出します。海水中に放出された卵と精子は直ちに受精して,翌日には2枚の殻を持つD型幼生になります。どこかに付着するまで,だいたい2週間近くの間,動物プランクトンとして浮遊生活を送ります。天然採苗では,付着期幼生の出現する時期と場所を特定して,コレクターを設置します。

次のスライドはマガキ幼生に関する条件です。
・産卵から付着まで約2週間の浮遊生活を送る
・魚のように泳ぐことはできない(潮流に逆らって移動するような遊泳能力はない)
・面盤の繊毛運動で表層5mより浅い水深を浮遊
・生存・成長のために「絶対に」餌が必要(人工生産だと餌がなくても卵の栄養で3-4日目くらいまでは生きることはできますが,それ以後は無理です)
・繊毛運動が止まる(死ぬ)と沈下する(人工生産だと水槽の底に沈みます)

幼生は常に面盤の繊毛を運動させることで表層に留まっているイメージです。あとは流れに乗って移動するのみです。

潮流の基本的な動きは,月と太陽の引力によって起こる潮の干満にともなって起こりますので,その地形によってどのように流れるか予測できます。さらに水温,塩分,河川水の流入や風などの影響を計算に加えると正確に海水の動きをシミュレートすることができるとのことです。つまり,マガキの天然採苗の場合で考えると,産卵場所から付着する場所までの幼生の動きをおおよそ推定することはできるということです。ただし,この推定には幼生が生き残ることができるかどうかの視点は入っていません。

かき養殖にとって条件に恵まれた広島湾の地理的特徴

広島湾とは正確には屋代島(周防大島)と倉橋島に囲まれた範囲で,伊予灘,安芸灘に接するいわゆる閉鎖性海域です。かき養殖漁場は大奈佐美島より奥の広島湾北部海域(平均水深約18m),呉湾,江田島湾に集中しています。その他,厳島周辺,阿多田島北側,大黒神島周辺,倉橋島周辺,広島湾以外の広島県の沿岸域では呉市広(広湾),呉市安浦(三津口湾),東広島市安芸津(三津湾)に漁場があります。

広島湾の奥部に大型河川が流入しています。
流域面積1700平方キロメートルの一級河川「太田川」が広島湾の最も北側から流入しています。かつて上流からの豊富な砂の供給によって形成された河口三角州上に都市(広島市)が発達しました。戦後埋め立てが進むまでは河口に広大な干潟が存在し,かき養殖をはじめ様々な沿岸漁業が行われていました。

島に囲まれた閉鎖的な海域に豊富な河川水が流入することで,発生した餌料プランクトンやマガキ幼生が散逸することなく滞留します。また,島に囲まれた穏やかな海況は養殖施設を風波の影響から護っています。

広島湾でかき天然採苗ができる理由
1. 大量の産卵
大量の養殖が行われているため,夏を越す養殖かきが一斉産卵することで,他の付着生物の影響を受けない濃密な幼生群を形成します。条件が良い場合には,短期間に大量の採苗が可能になります。
2. 豊富な餌
3. 散逸しない
これは先ほどのかき養殖全般について述べた通りです。
4. 漁場がある
湾内にかき養殖漁場が広く分布しているため,付着期幼生の分布が多少偏っても採苗可能な漁場があるということです。

講演概要-その2につづく

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